4話
その話をされて、父親の話の内容が、にわかに信じられないようだった。
目を見開き、蒼白の表情で立ち尽くす武雄に、父親の言葉がさらに畳みかけてゆく。
「いきなり、婚儀の話をされても、ありがたすぎてピンと来ないみたいだな。
こんな綺麗な花嫁を貰えるんだから、ビックリしすぎて声もでないか?
とにかく、さきの、私の参議院出馬の件もあるし、時期的に茉莉さんが内に入ってもらえる話は大歓迎だとお前も思うだろ?
これ以上、力強い後ろ盾はないくらいだ。」
「・・・そんなに茉莉を奉られたら、かゆくて仕方なくなるよ。お前と俺の仲じゃないか。君が内の派閥に入ってくれたら、こちらとしても、こんなに頼りになる人材はいないんだ。こっちこそ、出馬を決断して下さって、感涙の極みにあるくらいなんだ。」
両親で盛り上がっている。
婚儀の話をされた当の本人達は、表情の消えた人形のように、その場で立ちすくんでいたのだった。
「お前たち、二人で絵になるように立っていないで、こっちにおいで。」
立ちっぱなしにさせているのに、気付いた河田が手招きしてくる。
ギクシャクとした動きでソファに座る武雄の後に、茉莉も座った。
武雄の、血の気が引いた顔を見ているだけで、彼が茉莉との婚儀を歓迎していなくらいは茉莉でもわかる。
けれど、父親の河田は、単純に武雄が喜ぶはずだ。というのを大前提にしていて、彼の心情は思いもよらない状態のようだった。
茉莉は・・・。
河田家のような家柄の元へ、嫁ぐように躾けられてきたのだ。
父が『嫁げ。』と命ぜられたら、たとえ親子ほどに年の離れた男の元へも嫁ぐ覚悟は、とうの昔についていた。
茉莉にしては、年齢も20代で、180センチ以上はある立派な体躯。その上に乗る顔は男性的だ。見た目だけでも、及第点どころか、合格点間違いなしだ。
エネルギッシュな瞳を見るだけでも、河田家の未来は明るいだろう。
(お父さま。ありがとう。素晴らしい花婿様を選んでくださって・・。)
と、感謝感激の言葉をあげたとしても、いいくらいの相手のはずだった。
けれど、実際の茉莉はと言うと、武雄と同じようにして・・・いや、武雄の方がまだマシだったのかもしれない。
無理に作った笑みを浮かべて、凍てついた表情で身じろぎもせずに、親たちの話に耳を傾ける茉莉の姿は命を持たない、よく出来た人形のようだった。
(河田の家に嫁ぐ・・。)
茉莉は、心の中でつぶやく。
それはイコール。この家に呪縛されるという事だ。